〇〇した話

「〇〇した話」的な見出しが苦手だ。

これはもう完全に主観的な問題ではあるものの、理屈でいうと「○○した」で止めてしまってよいではないかと思ってしまう。

技術系のブログや投稿でもよく目にするが、こういう「〇〇した話」というフォーマットでタイトルがつけられていると、周囲の慣習や内輪ノリにで見出しを決めてしまうような人なのだなと、強烈な色眼鏡を装着して読んでしまう。

RSS を購読している企業テックブログで適当に検索してみたところ、ほぼすべてのテックブログで「〇〇の話」フォーマットの記事が投稿されている。

ここに並べているのは本当に適当にサンプリングしたものではあるが、眺めていると傾向は見えてくる。テーマとしては業務改善系、インフラ系、人事組織や企業文化に関するものが多いようだ。また、結論だけ伝えたいわけでなく、課題感やそれに対する取り組み、その結果といった一連の顛末を含めて、まさにストーリーとしての読み物に「〇〇した話」というフォーマットが利用されやすいのかもしれない。

また、「あくまでうちの会社の話ですよ」的なエクスキューズになり、筆者としては心理的なハードルが下がるのかもしれない。確かに、こんな零細個人サイトであれば好きなことを書けるが、会社の看板を背負って発信するのであれば、「うちでやってる取り組みの一例です」という予防線を張りたくなるのはとても良くわかる。

加えて、これは個人の肌感なのでぜんぜん違うと感じる人もいるかもしれないが、「○○した話」フォーマットは LT でよく見かけるタイトルのように感じていて、 LT が盛んな文化にいる人が記事を書くと同じフォーマットになるのかもしれない、とも考えている。

というところで、ある程度は意図や背景を理解できたので、今後は色眼鏡なしで記事を読めそうだ。


ところで、いつ頃から使われるようになったのだろうという疑問がある。

Qiita でタイトルに「した話」を含む最古の記事を調べてみたところ、 Qiita が提供している検索機能で取得できる範囲では以下がそれに当たるようだ。投稿日は2013年01月30日である。

Qiita 自体は2011年からサービスを提供しているはずなので、2011年と2012年には「〇〇した話」フォーマットの記事は存在しなかったことになる。その後、右肩上がりに記事数は増え、2020年にピークを迎えて年間607記事が投稿されている。今年はもう半年過ぎているので、おそらく607件には届かなさそう。

一方で、技術記事に限らず軽く調べてみたところ、『ビリギャル』が見つかった。

原作書籍の発行日は2013年12月27日であるが、2015年5月1日公開の映画では『映画 ビリギャル』とタイトルが変更されていることから、マーケティング観点で「した話」フォーマットより『ビリギャル』のほうが良いと判断されたのかもしれない。

こういった商業コンテンツのタイトルに関してはもっと慎重に検証しなければならないと思うので深追いはしない。


気持ち的には、掲示板の「〇〇した時の話する?」みたいな、軽いノリの表現なのかもしれない。しかし、そもそも「〇〇した時の話する?」の後に「その話聞かせてくれよ」と続いているのを見た記憶はなく、ほぼ「〇〇」の部分ですべてを伝えてしまっているので、なぜ問いかけているのかも良くわからない。「〇〇した時の話する? いや、これうちのテックブログだったから勝手にするわ」の略が「○○した話」なのだろうか。

誰か2017年に同じ疑問を持っている増田がいるので、返事をしてあげてほしい。


付録:

サンプリングしたテックブログ記事の URL を眺めていて面白いことに気づいた。URL 中の英語を見比べると「した話」的な英語が見つからない。

  • 3ヶ月間の英語研修でTOEICスコア 665 → 890 になった話 (my-english-learning-experience)
  • iOSエンジニアがサーバーサイドもやってみた話 (ios_to_server_side)
  • LINEの大規模なData PlatformにData Lineageを導入した話 (data-lineage-on-line-big-data-platform)
  • GraphQLライブラリをApollo→Relay→Urqlにハシゴした話 (graphql-apollo-relay-urql)
  • Cloudflareの画像最適化料金をWorker KVで97%削減した話 (price-optimization-using-cloudflare-workerkv)
  • KPIを追いかけていたらプロダクトビジョンにたどり着いた話 (kpi-and-product-vision)
  • 特定の端末のみで起こる WebView プチフリーズを Tracing を利用して追った話 (chrome_tracing)
  • Vue.js+Vuex+TypeScriptのWebフロントエンド開発現場を前向きに改善した話 (frontend_improve)

こういう一覧を作るあたりが私の性格の悪さである。